日本学術振興会研究拠点形成事業「アジア・アフリカ学術基盤形成型」 第2回目セミナー「教育行財政と国際教育開発の研究」が開催されました

2014年7月7日(月)、神戸大学大学院国際協力研究科が中核となり実施している日本学術振興会研究拠点形成事業(アジア・アフリカ学術基盤形成型)「アジア・アフリカにおける教育行財政研究と持続的な若手研究者の育成(コーディネータ:小川啓一教授」の第2回目のセミナーが開催されました。本セミナーは「教育行財政と国際教育開発の研究」をテーマとし、教育行財政の分野の最前線で活躍されている研究者や実務者を招いて行われ、60名以上の若手研究者(博士課程後期・前期在籍者も含む)が参加しました。

講師として、広島大学教育開発国際協力研究センター長・教授の吉田和浩氏、世界銀行本部教育エコノミストの野村真作氏、ウガンダ・マケレレ大学統計計画学部講師のウォカダラ・ジェームス氏 (Dr. James Wokadala)、米ジョージワシントン大学国際教育学研究科准教授のウィリアムス・ジェームス氏 (Dr. James Williams)、元世界銀行本部局長であり現在国際NGO Partnership for Transparency Fundのアドバイザーを務めるバガヴァ・ビネイ氏 (Dr. Vinay Bhargava)、大阪大学人間科学研究科助教の川口純氏の計6名を迎え、英語で議論が行われました。また同時期、本国際協力研究科では、国際協力機構 (JICA) の課題別研修事業「教育行財政―基礎教育の質、内部効率性、格差に焦点をあて―」を実施しており、15ヵ国から27名の教育省担当官が本セミナーに参加されました。

第一部では、まず「途上国における基礎教育財政」に着目し、吉田教授が「ポスト2015の教育アジェンダ-アウトカムに注目して-」と題して発表されました。ポスト2015における国際的教育アジェンダの締結に向けた協議プロセスと、その決定目標「2030年までに公平かつ包括的な質の高い教育と生涯学習を確保する」について解説されました。吉田教授はより「成果」を重視する姿勢を評価する一方、世界共通の目標設定の難しさと具体的な指標が未だ提示されていない点を指摘され、子どもたちの効果的な学習のため、政策立案者と研究者の密接な関係をもとに、より科学的根拠に基づいた政策立案の必要性を示されました。

続いて野村氏が、ご自身の世界銀行での経験をもとに「教育の質を目指したファイナンス-南アジアの動向と事例-」と題して発表されました。インパクト評価手法を用いて、インフラ、学習教材、教師の給与、教師の質、学校の栄養や奨学金といった、教育に対する政府の投入(政策)が真に子どもの知識・技能の習得につながっているか、これまでの実証事例を紹介されました。次にウォカダラ氏が「途上国における基礎教育財政の分析-ウガンダの事例から-」と称して、ウガンダの中央政府レベルでの教育予算および意思決定システム、初等教育のサブセクターでの支出経路や現在の予算配分についての解説、さらに国内のグッドプラクティスを見つけることの重要性を述べられました。

質疑応答では、JICA課題別研修の参加者であるガーナ教育担当官のコラモア・クリス氏が、同国が直面している予算制約上の効率的なプログラム選定の難しさを指摘し、ミャンマー教育担当官のキン・ウィン・タサンダー氏が、同国では教員給与が低く、教師が副収入に頼らざる得ない要因となっているとコメントされました。またフロアーからは、インパクト評価手法について、国や地域によって異なった結果が出る点や、学力の効果をどの時点で測るか等、今後の改善の必要性が言及されました。

第二部は「基礎教育行政」をテーマに発表が行われ、まずウィリアム准教授が、学校行政における生徒を中心としたアプローチの重要性について発表されました。次に、ビナイ教授により、自身のNGOの働きかけを具体例として、「教育に対するガバナンスの改善におけるコミュニティ参画の重要性」について発表がありました。フィリピンとケニアにおける2つのプロジェクト事例を挙げながら、政府の透明性と説明責任を向上させるため、市民の参加また市民社会組織を奨励すべき点を強調されました。

最後に、川口助教授が、最近の研究「マラウイの教員養成制度の変更の影響」と題して、教育の主体である家庭が教師の質に満足していないことを発見し、多くの親が私立学校に子供を送る傾向にあることを述べられました。第二部の締めくくりとして、タンザニア教育担当官ルエナ・マーセラス氏、ザンビア教育担当官リスロ・リホロ氏がコメントを提供し、その後の議論では、教師の教授スキルと学校経営陣の能力向上が必要であるという点が指摘されました。

今セミナーを通じて、アジア、アフリカ、中東さらに北米を拠点とし、国際教育開発の第一線において深い問題意識を持って活躍されている研究者・実務者・政策立案者の方々から、書籍や講義からはなかなか得ることができない貴重なお話をお聞きすることができました。このような機会を準備してくださった小川啓一教授、貴重な洞察と発見を共有してくださった全ての発表者、指定討論者の方々、そして協賛関係者の皆様に心より感謝いたします。

(文責:神戸大学大学院国際協力研究科博士課程前期1年 高橋 香名

関連リンク
http://www.kobe-u.ac.jp/NEWS/event/2014_07_07_01.html

 

IMG_6104_editedIMG_6108