世界銀行本部の宮島智美・教育スペシャリストのセミナーが開催されました

2015年8月18日(火)、神戸大学大学院国際協力研究科棟6階シミュレーションルームにて、開発運営政策セミナー、「学校を基盤とする開発を通じた中東の紛争影響国における強靭性向上」が開催されました。本セミナーでは、世界銀行本部で教育スペシャリストとしてご活躍中で、本研究科の非常勤講師として夏季の集中講義を担当されていた宮島智美博士を講師としてお迎えしました。

IMG_1995宮島博士は、中東で現在進行中の様々な紛争や危機についての概説から発表を始められ、その影響が中東・北アフリカ地域(Middle East and North Africa: MENA)全体に加え、日本を含む他の地域まで波及していることを強調されました。そしてシリアやイエメンを事例に、長期に渡る紛争が、人々の生活やインフラ、社会経済システム全般にどれだけ深刻な被害を与えているか、写真を交えて説明されました。この中では、ご自身の経験に基づき、イエメンにおける世界銀行のプロジェクト実施に紛争が及ぼしている弊害について、詳細を語られました。

続いて宮島博士は、脆弱国や紛争影響国に対する支援の分野における、世界銀行の対応について言及されるとともに、Abdul-Hamid博士やPatrinos博士らのチームが2014年に実施し、ヨルダン川西岸地区やガザ地区、ヨルダンを事例とする研究の成果について、その一部を発表されました。本研究は、TIMSSやPISAといった国際学力テストやNAfKE(National Assessment for Knowledge Economy)と呼ばれる全国テストのデータを用いた分析に基づき、国連パレスチナ難民救済事業機関(United Nations Relief and Works Agency: UNRWA)が運営する学校(以下、UNRWA学校)の学生や教員が、困難な状況に直面しているにもかかわらず、公立学校と比較してより優れた成果をあげていることを実証したものです。

セミナーの最後に宮島博士は、UNRWA学校で導入され実施中の強靭性(レジリエンス)向上を目指すアプローチについて紹介されました。そして、強靭性はそれ自体が成果物なのではなく、困難な状況下においては長期に渡る過程の一つとして捉えられるべきことを強調されました。興味深い発表に引き続きもたれた質疑応答の時間には、UNRWA学校の背景や、地域の学校システムの中の位置づけ等に関する質問が相次ぎ、活発な意見交換が行われました。本セミナーは、現在世界的に注目が集まる中東の紛争影響国の問題に対し教育セクターが行っている取り組みの現状を知り、その可能性について考える大変有意義な機会となりました。

(文責:博士課程後期課程3年 坂上勝基

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