イーストアングリア大学での経験(高橋 香名)

私は2014年8月より1年間、ダブルディグリープログラムにより、イギリスの協定校イーストアングリア大学の修士課程、MSc Impact Evaluation for International Development(国際開発のためのインパクト評価)コースに留学しました。ここでは、イーストアングリア大学で過ごした1年間を紹介させていただきます。

学習面

国際開発研究科の修士課程には13コースあり、私の所属したインパクト評価のコースには計11名が在籍していました。アフリカのシエラレオネやケニア、イギリスやドイツ、アメリカ、中国、フィリピン、日本からの学生が集い、国籍に加え、経験値においても多種多様な顔ぶれでした。中には国連で20年以上も働いてきたベテランや、アジア開発銀行、ドイツ国際協力公社などで勤務した方もおり、彼らの経験から学ぶことも多く、私にはとても刺激的かつチャレンジングな環境でした。

2014年9月から12月にかけての秋学期は、必修である「計量経済学」と「厚生と評価」、「研究・分析手法」の3科目を履修しました。基本的に各科目、2本のエッセイが課され、期末には3,000字程度のエッセイを提出しました。また、参加自由なのですが、英語で論文を書くためのアカデミックスキルの基礎を学ぶ講座が開かれていたので、私は毎週出席しました。コア科目である評価の授業では、政策立案者と研究者の間のコミュニケーションギャップについてグループ発表を通して学んだり、ランダム化比較試験(RCT)を導入する際の問題点についてケーススタディを用いてエッセイを書いたりしました。こうした活動を通し、文献からではありますが、インパクト評価を取り巻く国際開発援助の潮流に触れることができ、とても刺激的でした。

BD春学期(2015年1月から3月)は、必修の「インパクト評価の実践的手法」の他、関心のあった「教育政策と実践」、「ジェンダーと社会開発」の2科目を選択しました。インパクト評価の授業では、統計処理ソフトSTATAを動かしながら主な定量的分析手法について実践的に学び、期末に3,000字の分析ペーパーを提出しました。セミナーでは、RCTと定量・定性分析を組み合わせたインパクト評価について、2つのグループプレゼンテーションが課され、クラスメイトとの準備・発表を通じて、議論する力、伝える力、書く力が鍛えられたように思います。教育政策の講義では、一国の教育省の政策文書を読み、政策レベルと学校レベルのギャップを批判的に議論したり、マイノリティに配慮した教育プログラムをグループで企画・立案したりしました。ジェンダーの授業では、年齢によって変化するジェンダーに纏わる社会の期待や抑圧を分析するライフサイクルアプローチや、マイノリティに優先枠を設けるアファーマティブアクションが与える影響などについて学び、新しい視点を得ました。世界の移民問題をとっても、ジェンダーの視点から考えると、まだまだ見落とされていることがたくさんあるのだと実感しました。そういった面で、政策決定者から軽視されがちなジェンダーやマイノリティ、障がい者の分野で、小さくても画期的なプロジェクトのインパクト評価を行うことで、その効果を科学的なデータに基づいて実証し、スケールアップに結びつけていく例を知り、感銘を受けました。

修士論文作成は、春学期からテーマを絞り、それを元に指導教官を自分で探し、3月に簡単なプロポーザルを提出した後、内容についてアドバイスをもらいながら8,000字から12,000字の論文を執筆するという流れで進みます。私は6月から2カ月間インターンシップを行ったため、その期間分の延長許可を得て10月に、ウガンダの中等教育無償化政策とその政策が子どもの労働時間に与えるインパクトというテーマで論文を提出しました。現在、神戸大学の修士論文を執筆中で、来年3月に2つの修士号を取得する予定です。

私生活

勉強面以外でも、クラスメイトや友人のおかげでとても充実した時間を過ごすことができました。冬季休暇中は友人とドイツ・オーストリアのクリスマスマーケットを回ったり、イースター休暇中に友人の実家のあるイギリス北部リーズを訪ねたり、パリにピアニストとして留学中の旧友を訪問したりと、地の利を生かして欧州文化の奥深さに触れました。

実は、ちょうど4月の筆記試験を目前にしたところで、ネパールで8,000名以上の死者を出す大地震が発生しました。そこで、私達は数名のネパール人・韓国人・日本人学生とサポートファンドを結成し、計6回のファンドレイジングイベントを企画しました。多くの留学生とベイクセールやムービーナイトを学内・学外で実施し、集まった募金を赤十字に送りました。

また、少し心に余裕が出来てきた春学期は、クラスメイトの誕生日パーティーを私の寮で企画したり、キャンパスの池の近くでBBQピクニックをしたりしました。夜通し取り組んだ課題の提出後に、各国の手作り料理を持ち寄りながら、お酒片手にクラスメイトと語り合った時間は最高のひと時でした。

開発学研究の発祥地であるイギリスで、様々な文化や視点を持ったクラスメイトと肩を並べて勉強し得た、物事を複眼的に捉える姿勢、そして友人は何にも代えがたい私の宝物となりました。何度も挫けそうになったとき、いつも厳しくも温かいアドバイスをくださりサポートして下さった小川啓一先生に心から感謝致します。また、推薦状を書いてくださった高橋基樹先生、ダブルディグリー制度応募をご支援くださった出町和恵先生、先生方のお力沿いのもと、JASSO海外長期派遣の奨学金をいただけることになり、この留学が実現しました。幾度もなく書類準備でお世話になりました、神戸大学の教務課の皆様にもお礼申し上げます。また、背中を押してくれた家族、明るく励ましてくれた神戸の同期に、感謝の気持ちでいっぱいです。

神戸大学大学院
国際協力研究科博士課程前期2年
高橋 香名