Dr. Phal CHEA からのメッセージ
To Potential Ogawa Seminar Stu...
9月22日から10月4日にかけて、私は島村靖治先生のご指導の下ウガンダ・マラウイで行われた海外実習に参加しました。ウガンダでは主に三つの活動を行い、JICAカンパラ事務所の訪問、NPO法人テラ・ルネッサンスの活動見学、北部州のJICAプロジェクトサイト訪問を実施しました。マラウイでは大きく二つの活動を行い、JICAマラウイ事務所への現行プロジェクトについての聞き取り調査、またNPO法人ISAPHの栄養改善活動の見学を実施しました。
私たちはJICAカンパラオフィスを訪問し、事務所の方にインタビューを行いました。JICAウガンダが行っている事業は数多くありますが、職員の方が中でも強調されていたのは、ウガンダが周辺国の陸路の要衝としての可能性を持っていることでした。また、JICAウガンダのインフラ、農業、教育等のそれぞれのプロジェクトについてもお話を伺いました。私自身は初等教育について研究していますが、こうした様々な開発の問題について学び、またウガンダという国の発展について考える貴重な機会となりました。
日本のNPO法人であるテラ・ルネッサンスはウガンダ北部州の中心都市であるグルで活動をされています。主な活動として、元子供兵や内戦の被害を受けた人々、また極度の貧困にある人々に対し、家具作りや洋裁などの職業訓練を行っています。1年半の訓練のあと、修了生は自分たちで事業を始めるための経済的援助を受けます。私たちは彼らの授業と卒業生の作品を学校で見学しました。受講生は非常に熱心に講義を受けており、また卒業生の作品もどれも質の高いものでした。
またこうした経済的自立のための支援だけでなく、テラ・ルネッサンスは内戦によるPTSDやトラウマへのケアも行っています。内戦の被害者の中にはシングルマザーも数多くおり、彼女たちは子供を学校に連れてきており、テラ・ルネッサンスは元子供兵や内戦の被害者が共に過ごすコミュニティのような様相を呈しています。かつての戦争の加害者と被害者が、お互いを尊重しつつ学ぶ光景は心揺さぶられるものでした。また学校を見学したのち、私たちは実際に事業を始めた卒業生を訪問しました。すでに事業が軌道に乗り、未来を希望に満ちたものとして語る卒業生もいました。これらの体験は、ウガンダでの内戦について考える機会になっただけでなく、テラ・ルネッサンスのような草の根レベルの活動の重要性を再認識させてくれるきっかけとなりました。
私たちはJICAグルフィールドオフィスを訪問し、プロジェクトについてお話を伺いました。北部の内戦後復興支援は、JICAウガンダ全体の柱の一つとなっています。北部州でJICAはこれまでに水道、道路、学校などのインフラや、地方行政官の能力開発などに対し支援を行ってきました。私たちはこうした援助の正と負のインパクトについて議論を行いました。例えば道路の補修事業であれば流通の促進や経済発展などのメリットが見込まれますが、一方で道路周辺の人の往来が多くなり犯罪が増加する可能性もあります。北部州では内戦によってインフラなどの物理的なものだけでなく、コミュニティも離散してしまったという経緯があります。こうしたインフラ支援は、コミュニティを復興させるためにも重要なものであると言えます。
ウガンダでは1週間という短い期間ながら、JICAとテラ・ルネッサンスという規模の違う援助の形を見ることができました。どちらの援助の形にもメリット・デメリットがあり、開発援助というもの自体を再考する良い機会となりました。また様々な視点からウガンダを見ることで、自分の研究を現地にどのように還元するかについても考えるようにもなりました。
私たちはJICAマラウイ事務所を訪問し、現行のプロジェクトについて職員の方からお話を伺いました。職員の方によれば、様々なプロジェクトを行う中で大きな問題はマラウイの財政状況であるということでした。近年は汚職に伴いドナーからの支援金が一斉にストップしたこともあり、また国自体の外貨獲得力が停滞しているため、状況はますます厳しくなっていると言えます。
事務所でのブリーフィングの後、私たちはJICAが支援して建設中の中等教員養成校、協力隊の方が派遣されている中等学校を訪問しました。教育に関して言えば、ウガンダとマラウイはいくつかの共通点があるように見受けられました。例えばイギリス由来の教育制度、教師の給料や教師寮の不足といった労働環境の改善余地、といった部分です。一方で異なる点として、ウガンダの教師は欠勤率が高いのに対し、マラウイの教師は欠勤よりもむしろ離職率が高いということがあります。こうした違いがなぜ生まれるのかについて考察することで、本来の自分のウガンダの研究にもより深みが出るように思われます。一国だけでなく二国間の比較の視点を取り入れるなど、視野を広げることの重要性を実感しました。
日本のNPO法人であるISAPHは、マラウイの北部の一都市であるムジンバを拠点に、5歳未満児童の栄養改善の活動をされています。私たちはISAPHの職員の方にインタビューを行い、活動を見学しました。現在ISAPHは主要な活動として、5歳児未満の児童の成長記録を行っています。児童の健康は教育と並び国家の成長の源として、特にアフリカの途上国では非常に重要な問題です。また健康と教育には深い関連があります。ISAPHの方によれば、例えば両親が十分な識字能力を持っていない場合、母子手帳に子供の健康状態を正確に記録できない、という問題があるそうです。こうした栄養改善のプロジェクトにおいても、教育が大きな役割を果たしていることを目の当たりにしました。
マラウイでは教育、そして健康のプロジェクトを視察しました。視察を通し、私の研究テーマであるウガンダの教育を分析するにあたり、取り入れるべき多くの視点を学びました。自分のテーマにばかり固執するのではなく、視野を広げてみることは非常に重要であると強く感じました。
今回の海外実習を通して、私たちは多くの場所を訪れ、多くの人に会い、また様々な問題について多くのことを学びました。私の研究はウガンダの教育に特化していますが、この実習では開発に関わる問題に対しより深く学ぶことができました。また、これらの知識は研究における考察をより深くしてくれるものと確信しています。最後に、この実習を指導してくださった島村靖治教授、実習中案内をして下さった関係者の皆様、また今回の実習の機会を下さり実習中も全面的にサポートして下さった小川啓一教授に心からの謝意を表し、末筆に代えさせていただければと思います。
(沼澤 建)