世界銀行と持続可能な開発目標「人的開発指数 ―学修成果の視点からー」(Dr.Harry Patrinos)

2022年1月14日、世界銀行でプラクティスマネジャーとして勤務されるHarry Patrinos博士を招聘し、「人的開発指数 ―学習成果の視点から―」をテーマとした講演が行われました。

 Patrinos博士は、人的開発指数について、教育、健康、社会保護などを含む包括的な人的開発を測る指標であると述べ、世界銀行の人的開発プロジェクトについて(1)次世代の人的資源への投資、(2)投資を支援するための調査と効果の測定、(3)人的資源を向上させる国家政策作成への支援といった3つの支援の柱を用いて説明しました。さらに、2020年の人的資源開発指数の最新の結果について、南アジアとサブサハラアフリカの数値が低く、新型コロナウイルス感染拡大によりその格差が広がっていると説明しました。

 次に、Patrinos博士は、「教育年数と学修成果は同じではない」ということを述べました。1950年から現在にかけて、「就学年数」という観点からは、教育は改善している一方で、学修成果はあまり向上しておらず、むしろ悪化している国・地域があることを説明しました。2020年のデータによると、およそ2億6千万人の就学児が文字を読むことができず、新型コロナウイルスによる学校閉鎖などによりさらに悪化していると述べました。

 また、教育収益率に着目すると、私的収益率が高等教育で最も高い点、サブサハラアフリカや南アジア地域は教育収益率が他の地域よりも比較的に高いこと、女性の方が男性よりも教育収益率が高い点の3点を強調されました。さらに、学修成果と経済成長には強い相関関係があることを示し、今後は、学習成果に焦点を当てることが重要であると述べました。近年では学力を測るための国際就学・理科教育調査(TIMSS)やOECD生徒の学習到達度調査(PISA)など国際学力調査が発展国を中心に普及してきた一方で、低所得国や中所得国には普及していないという問題点について言及し、低所得国及び中所得国を含んだ学習調査の重要性について説明しました。  

 最後に、今後の国際教育支援の優先的な取り組みとして、(1)幼児教育への支援を通じた早期での格差の是正、(2)教員研修による教員の質の向上、(3)関連スキル(問題解決能力、コミュニケーションスキル、社会的スキル)向上の3つを紹介し、この分野に優先的に投資していくことが重要だと説明しました。このように本講義では、人的開発指数及び学修成果について知見を深め、就学年数だけではなく、「何を学んだか」を保証していくことが重要であるということについて、理解を深める貴重な機会となりました。

文責:宇野 耕平 (博士前期課程1)

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