タイ・ライスにおける高度海外研究(寺島 敏)
期間:2014年1月5日〜1月31日 派遣先大学: タイ チ...
2014年8月26日から10月3日の40日間、インドネシア共和国の教育文化省(Research Center for Educational Policy, Ministry of Education and Culture所属)にて、インターンシップをさせていただきました。インドネシア教育文化省において、私のような日本人の修士学生をインターン生として受け入れることは初めてのことだったので、基本的なインターン内容は、自身の関心テーマに沿った調査を自身で計画し、進めていくことでした。所属先が教育文化省の教育政策研究所と呼ばれるところだったため、私自身の研究について、担当者であるDr. BambangIndriyanto (Head, Research Center for Educational Policy, Ministry of Education and Culture)をはじめ、研究者の方々から様々なアドバイスをいただきながら、研究をすすめていくことが出来ました。
ジャカルタ市内にアパート(AVALON-THAMRIN29)を借り、日々、教育文化省に通いながら、専門家が実施している政策研究について学ばせていただきました。私が配属された研究所では、教育経済、金融、文化等、様々な分野における教育政策を中心とした研究が成されていました。
当初、教育文化省が国際援助機関と共同で実施する教育プロジェクトの企画、運営、評価等のプロセスに関する様々な業務に、実務補助として携わる予定でしたが、私がインターンシップとして入る前にそのプロジェクトが終了してしまったため、自身の研究に関してインドネシアの教育データベースを活用した教育プログラムの分析・評価をさせていただきました。これらのデータは私自身の研究にも大いに活用させていただく予定です。
また、私自身、宗教が教育に与える影響に特に関心があったので、イスラム教徒が人口の88%以上を占めるインドネシアの中でも、ムスリムが多数を占める西ジャワの公立学校において、非ムスリムの生徒を対象とした質問紙調査をさせていただきました。インドネシア教育大学のスマール先生にもご協力いただき、西ジャワの都市バンドンに加え、その周りにあるスメダン、レンバン、チマヒという計4つのエリアの学校をまわり、調査を行いました。調査を行ったのは、教育文化省が管轄する公立学校です。質問紙調査は、「非ムスリム児童の帰属意識」と「少数派という立場からの劣等感意識」という二つの視点から作成しました。
質問紙調査に加え、公立学校で行われている宗教教育について深く理解するため、宗教の時間の参与観察を行ったり、宗教の授業を担当する教師にインタビューをさせていただいたりもしました。実際に学校現場に行った経験の中で、文献の中では見つけられなかった気づきにたくさん出会いました。
インドネシアの公立学校における宗教の時間には、生徒たちは信仰する宗教ごとにクラスに分かれます。しかし、学校によっては非ムスリムの児童でもイスラム教の授業に参加することができるということが参与観察を通して分かりました。訪問したレンバンの小学校では、1クラス(約35人)に非ムスリムの児童が1人という割合だったため、宗教の時間には、その児童も他のムスリムの児童と一緒にイスラム教について学んでいました。
ムスリムの子どもは通常、アラビア語でコーランを学びますが、その学校では、非ムスリムの児童のために、インドネシア語で書かれたバイブルが用意されていました。授業前後の挨拶、コーランの音読、授業のトピック等はアラビア語で行われていましたが、それ以外の授業は基本的にインドネシア語で行われています。インドネシア教育大学の方がボランティアで英語通訳をしてくださったため、授業のめあてや内容を把握することができました。公立学校で行われている宗教の時間では主に、信仰心を通して、道徳心や共生の心を育んでいくことが目的とされています。授業の様子をビデオデータに収めたので、詳しい内容については、今後さらに分析を加え、考察を深めていきたいと思います。また、この学校訪問を通して得られたデータについては、今度、韓国で開催される国際学会で成果を発表したいと考えております。
このインターンシップを通して私が痛感した反省点は大きく分けて二つあります。一つは、自身の研究計画および現地調査のための準備が不足していたことです。とりわけ質問紙調査に関しては、インドネシアの宗教や、一般的なイスラム教の知識が不足していたことから、満足のいく結果を得ることは出来ませんでした。また、調査対象の学校や児童の条件をきちんと把握していなかったことで、計画的に調査を進めていくことが出来ませんでした。
二つ目に痛感したことは、言語の壁でした。インドネシアでは、学校の授業はもちろん、ほとんどの教育関係データはインドネシア語で記されています。そのため、教育文化省の方から直接カリキュラム等のデータを得ることが出来ても、辞書を使って翻訳するところから始めなくてはなりませんでした。また、学校で参与観察を行う際は、英語の話せる通訳をつけなければ、授業内容はおろか、教師とのコミュニケーションも困難でした。
しかし、このような反省点を踏まえながらも、得られたことはたくさんありました。私の場合、学校現場へ行かせていただく機会が多かったので、バンドンに住むインドネシア人の友達と寝食を共にしながら、インドネシアの文化に直接触れる生活を送った経験もあります。この経験を通して、私はインドネシアという国が大好きになりました。そして、この人たちの役に立てるような研究がしたい、と強く思うようになりました。このモチベーションを今後の自分の研究成果に繋げていけるように努力していきたいです。
末筆ではありますが、インドネシア教育省でのインターン・ポストがなかなか得られず、諦めかけていた私の背中を押してくださった小川先生をはじめ、研究についてアドバイスしてくださったインドネシア教育文化省・教育政策研究所のアドバイザーの方々、インドネシア渡航に際し、現地の情報を提供してくださったインドネシア人の先輩方に感謝を述べたいと思います。このインターンシップでの経験と反省を活かし、次回のステップへと必ず繋げていきます。
博士前期課程
吉井 翔子