リスクマネジメントセミナー「コロナ禍のケニアにおける公正な基礎教育に向けた課題」(Dr. Francis Malenya)

2022年3月29日、神戸大学キャンパスアジア・プラス・プログラムのリスクマネジメントセミナーにケニヤッタ大学講師のFrancis Likoye Malenya博士を招聘し、「コロナ禍のケニアにおける公正な基礎教育に向けた課題」と題した講演をしていただきました。

最初にMalenya博士は、2020年3月から全国規模で学校が閉鎖し、9ヶ月の間、およそ1800万人の生徒が学校教育の機会を失ったという状況を説明してくださいました。また、ケニア教育省の取り組みとしては、同年5月に策定されたコロナ緊急対応プランを挙げ、学校閉鎖期間中の教育活動を継続させるための諸施策を紹介しました。具体的には、「Kenya Education Cloud」と呼ばれるオンライン学習プラットフォームの強化や学習教材の配布などが挙げられています。

こうした教育省による学校閉鎖の判断や緊急対応の策定などについて評価する一方で、Malenya博士は公正性の観点から問題があると指摘しました。例えば、2019年時点でケニアの17.9%の家庭しかインターネットへのアクセスができていません。オンライン学習プラットフォームの展開による恩恵は、必ずしも全ての人が享受できるわけではないのです。

こうした公正性の議論を踏まえてMalenya博士は、コロナ禍のケニアにおける公正性の課題として、1)家庭の学習環境の格差、2)ジェンダー格差、3)社会経済的格差、4)地域間格差、5)技術的格差、6)公私立校間格差の六つの点を指摘しました。こうした格差はこれまでも存在していたものでありましたが、見えづらかった課題です。Malenya博士はコロナ禍がこれらの課題を表面化させたと指摘し、公正なポストコロナ対応こそが教育に関するSDG4の達成に必要不可欠であると述べました。本講演を通じて、ポストコロナでの教育のあり方を改めて考え、今後さらなる教育課題に立ち向かう上での示唆を得ることができました。また、コロナ禍でフィールド調査を実施できない状況下において、現地の様子を深く理解することができたことは、大変有意義な時間であったと考えます。

講演後には、大塲麻代准教授(帝京大学外国語学部外国語学科)を討論者としてお迎えし、質疑応答に繋がる議論を展開していただきました。質疑応答の時間には参加者から多くの質問が寄せられ、それぞれに対してMalenya博士が丁寧にご回答くださいました。

関連リンク:Malenya, F. L. (2021). Provision of Basic Education in the Context of the COVID-19 Pandemic in Kenya. Journal of International Cooperation in Education, 24(2), pp.27-44. (​​広島大学教育開発国際協力研究センター(CICE)『国際教育協力論集』)

文責:八木歩(博士後期課程1年)