世界銀行と持続可能な開発目標 「職業訓練教育と持続可能な開発目標 (SDGs)」(中田志郎博士)

2022年1月10日、現在世界銀行上級教育エコノミストである中田志郎博士をお招きして、「職業訓練教育と持続可能な開発目標」をテーマに、講演が行われました。

中田博士は、職業訓練教育について議論する際には、その獲得が目標とされる「スキル」という概念についてまず理解する必要があり、それは、初等教育や中等教育で身につける認知能力や非認知能力、社会情緒的発達のようなスキルから、高等教育で学ぶ高次の認知能力(Higher order cognitive skills)まで含むと説明しました。特に、職業教育訓練を通じて習得が期待されるスキルは、企業で即戦力となるためのより実践的なスキルであると説明しました。一方で、スキルの向上を考える際にもう一つ重要な「スキル発達とエコシステム」という概念に触れ、スキル向上は供給側(教育機関)と需要側(企業・技術・市場)の双方を考慮し、供給側と需要側の意向が一致・連携していることが、職表訓練教育において一番重要なことであり、そして一番難しい部分でもあると述べました。

バングラデシュでのプロジェクトを担っている中田博士は、バングラデシュの経済について、近年著しく成長してきた一方で、低賃金・低熟練労働者を経済成長の基盤にしており、これまでの10年間では生産性に大きな変化は見られないと言及しました。求められるスキルの低い職業は、技術の発展と自動化により消滅する可能性があることを指摘し、スキルと生産性を向上するためには職業訓練教育がバングラデシュにとって最重要であると述べました。次に、中田博士はバングラデシュの職業訓練教育の問題の1つとして、「スキルのミスマッチ」を挙げ、現在バングラデシュでは大学を卒業しても仕事がない人材が多くいる一方で、企業の多くが求めている人材がいないと認識しているといった「スキルのミスマッチ」を職業訓練教育の課題として、世界銀行による調査結果を用いながら説明しました。企業が求めている人材としては、(1) 高次の認知能力・非認知能力、チームワーク、リーダシップを備えた人材、(2) 実践的な技術、(3) ICT関連のスキル、(4) 仕事に適した人材、(5) 中間レベルのマネジメント能力を持った人材であると述べました。上記で説明したような企業側が求めている人材育成をするために、世界銀行としては、Accelerating and Strengthening Skills for Economic Transformation(ASSET)とうスキルに重点をあてたプロジェクトを支援し、直接企業からアドバイスやトレーニングを受ける機会を確保できるような企業との連携の強化を促進していると紹介しました。

本講義では、職業訓練教育とスキルという概念について知見を深め、特にバングラデシュが抱えている課題である「スキルのミスマッチ」に対して、世界銀行がどのようにアプローチをしているかを学ぶ大変貴重な講義となりました。。

文責:宇野 耕平 (博士前期課程1年)

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