フィリピンにおける研究調査報告 (上野 利江)

2024年2月29日より3月12日まで、フィリピンのマニラ市トンド地区においてフィールドワークを行いました。フィールドワークの目的は、都市スラムが形成されているトンド地区において、包括的性教育がどのように実施されているのか、受ける側と実施側それぞれの持つ意識や信念、それらに基づく行動を調査することです。包括的性教育の中でも特に、10代の妊娠を防ぐための内容に注目し、フィールドワーク中には20歳前後の若者とその母親、高校教員に対してインタビューを実施しました。

まず、若者に対するインタビューでは、20歳前後の男性および10代で妊娠した経験のある20歳前後の女性、それぞれを対象に、グループインタビューを実施しました。対象者には事前にオンラインにて個別インタビュー実施していましたが、グループインタビューを実施した際には、同年代の同性がお互いに意見を言い合う姿や、地域の文脈に沿った「語り」を聞くことができました。

次に、母親に対するインタビューでは、10代で親になった息子および娘を持つ母親を対象にグループインタビューを実施しました。本対象者も事前にオンラインにて個別インタビューを実施していましたが、グループインタビューにおいては、涙や笑いを含めた対象者同士での活発な会話のやりとりがあり、10代で妊娠することを親がどのように捉えているのか、理解を深めることができました。

また、高校教員に対するインタビューは、高校の学校長や、包括的性教育の授業を担当している教員などを対象に実施しました。トンド地区における10代での妊娠についての認識や価値観を、教員という視点から捉えることができました。さらに、若者や母親など、個人の経験を語りとして聞くインタビューとは異なり、教員が仕事として包括的性教育をどのように捉えているのかということを、新たに理解することができました。

フィールドワーク中には、インタビューのほか、トンド地区の散策や、個人家庭への訪問を通じ、その地域の雰囲気や文脈を肌で感じることができました。この点は、オンラインインタビューでは得られない情報でしたので、とても有意義なものとなりました。今後、本フィールドワークの経験が、少しでもフィリピンにおける包括的性教育の実施に貢献できるよう、分析や研究を進めてまいります。

末筆になりますが、本フィールドワークに関し、日本およびフィリピンの両方からご協力くださった認定NPO法人アクセスのみなさま、ご協力いただいたインタビュー参加者のみなさま、そして、多くのご指導をくださった指導教員の小川啓一教授に心より御礼申し上げます。

文責:上野利江(博士課程後期課程)