「ベトナムにおけるサステナビリティに向けた水資源ガバナンスの変遷」(Seungho Lee教授)

2024年5月30日、国際協力研究科にて、韓国・高麗大学国際大学院のSeungho Lee教授をお招きし、キャンパスアジア・リスクマネジメントセミナーを開催いたしました。Lee教授は水資源政策・管理をご専門としており、特に政策面に焦点を当てた研究を行っていらっしゃいます。また、Lee教授はキャンパスアジアプログラムの推進にもご尽力いただいております。

本セミナーでLee教授は、「ベトナムにおけるサステナビリティに向けた水資源ガバナンスの変遷」と題した講演を行われました。1968年のドイモイ政策をきっかけに急速な経済成長を遂げたベトナムは、一方で自国での水資源の確保の脆弱性(水資源の約60%がメコン川を通して他国から流入)や国内の人口増加や都市化などの新たな社会課題に直面しています。加えて、現代の気候変動による複合的な課題に対処するためには、持続可能な水資源のガバナンス整備が重要である事を強調されました。

ベトナムでは水資源に関する法律が1998年に初めて導入されましたが、水資源の確保に関する管理体制の基盤欠如により、様々な課題点が浮き彫りとなりました。2012年の法改正ではこの課題点を踏まえ、水資源に関する基本計画が策定され、水資源に関する情報やデータベースの基盤構築、MARD(Ministry of Agriculture and Rural Development)からMONRE(Ministry of Natural Resources and Environment)への担当委託など抜本的な改革が実施されました。しかし、頻繁に発生する洪水や干ばつなどの自然災害の被害を受けて2023年に再改訂が行われ、「水の安全保障」の強化、水資源の保護、水資源に関する情報の収集など、持続可能な社会を目指した制度改革が進められています。持続可能な水資源管理のためには構造的・非構造的対策により、先の気候変動問題への更なる対処能力の向上、水の安全保障の実現、開発重視から持続可能性重視への政策転換、水資源に限らない複合的な問題への対処、水資源に関する部門への財政投資の強化などが重要であるとの示唆を示されました。またLee教授はご自身のベトナムでの滞在の様子を、素敵なお写真と共に参加者へ共有くださいました。

質疑応答では、本研究科に在籍する中国、カンボジア、ミャンマー出身の大学院生らを中心に、メコン川が取り巻く水環境の重要性に焦点を当てた活発な議論が展開されました。人間が生活していく上で無くてはならない「水」の政策的側面を学び、持続可能な社会の中での「水」が持つ役割の大きさを再認識する、大変貴重な機会となりました。本講義を実施いただいたLee教授ならびに、貴重な機会を提供くださった小川啓一教授に感謝の意を表します。

文責: 大河原陸人 (博士前期課程)