マラウィ大学でのインターンシップ報告(五島 由加里)
2013年9月2日〜24日まで、マラウィ大学教育訓練研究セン...
2024年10月29日、チェンマイ大学助教授で神戸大学客員教授のNannaphat Saenghong博士をお招きし、「Preparing Thai Teachers for Diverse Classrooms: National Efforts and Global Implications」をテーマにご講演いただきました。講演の内容は、タイ王国における多文化共生に向けた教師教育に関するもので、1)タイにおける教師教育の背景、2)タイの公教育における民族的多様性、3)多文化教育に向けた教師教育、4)多文化共生と持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)、の4部構成で行われました。
Saenghong助教授はまず、タイにおける教師教育制度の基礎情報として、教師教育のカリキュラムの内訳や関連する教育政策や高等教育機関、教師教育に関する現在の課題などについて言及されました。次に、タイが抱える文化的背景として、62を超える民族集団が定住していることを指摘され、多様な民族的背景の下、公教育はどのように運営されるべきか、また教師はどのように訓練されるべきかについても解説されました。特に、多様な民族的背景のもとでタイの教授たちが直面している困難として、言語的障壁や文化的感受性などを挙げ、その上で多様な子どもたちを包摂する学校の実現には、多文化主義の考え(Multiculturalism)や多文化教育(Multicultural Education)が鍵となることを強調されました。
また、教師教育が果たすべき役割として、教師の多文化理解の促進や教室での多様性に向けた実践的訓練についても述べられました。さらに、タイ政府の多文化共生への政策的変遷についても概観され、2017年の憲法改定を経て、タイ政府が多文化共生社会の実現に向けて、前向きな姿勢を正式に打ち出したことを解説されました。しかしながら、依然として多文化共生に向けての困難は続いており、多文化教育を含む教師教育カリキュラムの開発の難しさや、憲法や法律レベルで多文化共生を提言する文言が限られていることなどを挙げられました。
講演の終盤では、多文化共生に向けた教師教育とSDGsとの関係について、目標4「質の高い教育をみんなに」、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標10「人や国の不平等をなくそう」の観点からも解説されました。ここでも、多文化共生社会の実現に向けた教師教育の重要性について述べられました。喫緊の開発課題に立ち向かい、「誰ひとり取り残さない」包摂的な社会の実現に向け、教師教育が果たす役割ついて非常に活気溢れる講演となりました。講演後には、Saenghong助教授と学生との活発な質疑応答セッションが設けられ、学生からの様々な質問に対し、1つ1つ丁寧に回答をして下さりました。
末筆にはなりますが、本セミナーを開催して下さった小川啓一教授、そして貴重な講演をして下さったNannaphat Saenghong助教授に心より感謝申し上げます。
文責:小池拓実(博士前期課程2年)