東ティモール民主共和国教育省におけるインターンシップ報告(岡本 栄雄)
2015年8月24日から9月28日までの約5週間に渡り、東テ...
私は、2024年8月1日から10月31日までの3か月間、博士論文で使用する1次データを収集するため、アフリカのマラウイにて高度海外研究を実施しました。本研究の目的は、マラウイの母系社会における婚姻後の居住形態に着目し、児童の初等教育機会に関して母親が世帯内でどのように意思決定に関与しているのかを明らかにすることです。私は、マラウイ大学教育研究訓練センター(University of Malawi, Centre for Educational Research and Training)において、主に以下の研究活動を行いました:(1)現地調査の準備、(2)村落地域にある公立小学校周辺の世帯を訪問し、既婚女性を対象としたインタビュー調査および質問紙調査の実施、(3)現地調査で収集した1次データの暫定的な分析です。
1つ目の研究活動では、マラウイでの現地調査準備として、同センターの局長であるDr. Dorothy Nkhata、シニアリサーチフェローであるDr. Elezabeth Meke、Ms. Esme Kadzamira、Ms. Lizzie Chiwaulaに研究概要と現地調査計画を発表しました。その際、頂いたコメントをもとに研究計画の修正や文献レビューを行いました。また、マラウイ大学での倫理審査においては、マラウイの文脈に精通した研究者の方々から貴重なコメントや助言を頂き、研究内容をより精緻化するための重要な機会を得ることもできました。
2つ目の活動では、1次データ収集のための現地調査を行いました。具体的には、マラウイ南部州のゾンバ県、ブランタイヤ県、中部州のリロングウェ県にある村落地域の各公立小学校4校(計12校)周辺の各36世帯(計108世帯)を対象に調査を実施しました。調査内容としては、各村落のコミュニティに精通した12名の女性に対するキーインフォーマントインタビュー、108名の既婚女性に対する個別インタビューと質問紙調査、さらに各世帯での参与観察を行いました。また、政府文書、援助機関の報告書、統計資料などを用いた文献調査も併せて実施しました。
3つ目の活動では、収集した1次データを基に暫定的な定性分析を行いました。具体的には、個別インタビューおよび質問票の回答をもとに、録音データのテープ起こしと翻訳を行い、それらの質的データのコーディングおよび概念化を実施しました。質的データ分析では、事例コードマトリックスを活用し、データ間の継続的な比較や欠損データの確認を行うことで、世帯内意思決定過程の特徴とそれに関連する要因を分析しました。分析の過程では、同センターの職員の方々からも助言を頂きながら、分析内容がマラウイの文脈に適しているのかを丁寧に確認しました。
暫定的な分析の結果、父系社会のように世帯内意思決定を夫が主導するという固定観念は見られず、世帯内で意見が異なる場合、交渉を通じた意思決定が行われることが明らかになりました。また、児童の初等教育機会に関する母親の意思決定への関与の度合いは、妻方居住、夫方居住、新居住といった居住形態によって異なることもわかりました。一方で、児童の教育機会に関する世帯内意思決定において、夫より父方の長兄である伯父の意見が重視される傾向も見られました。これは、結婚の際に伯父の許可を必要とするAnkhoswesというマラウイの結婚観に由来している可能性があり、この点は、夫が家長であるとする典型的な父系社会の議論とは異なる興味深い点として挙げられます。今後は、これらの要因間の関係性を分析し、特定の意思決定過程について詳細に検討することを課題として引き続き研究に励みたいと思います。
今回の高度海外研究を通じて、多くの貴重な知見や経験も得ることができました。まず、調査対象国であるマラウイの様々なレベルの教育関係者とネットワークを構築できたことは、今後の研究遂行において非常に重要な財産になると確信しています。第1に、マラウイ大学教育学部の教員陣との関係構築です。受け入れ先であるマラウイ大学教育研究訓練センターの職員の方々のみならず、教育行政学、教育社会学、教科教育専攻など、様々な分野の教員や研究者とも交流することができました。第2に、マラウイ教育省や地方行政、地方の教育行政職員の方々とのつながりです。これにより、政策文書や教育統計資料など、現地に赴かないと入手困難な情報源を得ることができました。また、現地調査の実施において、小学校や調査対象地域の村落訪問に必要な許可取りやインタビュー調査の日程調整を円滑に進めるための信頼構築を築けたことも、今回の高度海外研究による訪問があったからこそ実現したと感じています。
次に、研究対象国の教育開発における現状を踏まえた研究を行うことで、学術的な貢献のみならず、対象国に対して社会的にどのような意義や貢献があるのかという新たな視点を得ることができました。修士課程では新型コロナウイルスにより現地渡航が叶わず、これまで現地調査を実施できていませんでした。しかし、今回の高度海外研究を通じてマラウイを訪問し、インタビューや質問票を通じて1次データを収集することができました。その結果、量的分析から得られたデータ上の事実と質的分析をもとにした現地での課題を照らし合わせることが可能となり、マラウイの文化的規範を踏まえた形で本研究の問いに迫ることができるようになりました。これらの成果を総合すると、高度海外研究を通じた調査が博士論文の内容の深化に大きく貢献していることは間違いありません。この経験は、今後の研究活動においても非常に意義深いものになると確信しています。
末筆になりますが、このような大変貴重な機会を提供して下さった指導教員の小川啓一教授、マラウイ大学教育訓練研究センターにおける高度海外研究を受け入れてくださったDr. Dorothy Nkhata、Dr. Elizabeth Meke、Ms. Esme Kadzamira、Ms. Lizzie Chiwaula、およびチームの皆様、日本学術振興会若手研究者海外挑戦プログラムの研究助成を本高度海外研究に使用させていただけたことに拝謝申し上げます。また、現地調査の調整やマラウイ全体の教育資料を入手するにあたり、マラウイ教育省計画局局長のGeresomo氏、マラウイ教育省計画局副局長、教育管理情報システム(Education Management Information System: EMIS)センターのNamfuko氏に御礼申し上げます。そして、村落地域訪問のための調整に尽力してくださった各県首長、教育事務所所長、また、調査に同行してくださった各村落の村長と村民の方々、通訳のMwakanema氏に、心より感謝申し上げます。
文責:石井雄大(博士後期課程2年)