「2030年までにSDG 4を東南アジアで達成するには何が必要か」(ユネスコ 林川眞紀氏)

 2024年11月18日、神戸大学国際協力研究科にて、UNESCO・ジャカルタ地域事務所の所長である林川(勝野)眞紀氏をお招きし、キャンパスアジア・リスクマネジメントセミナーを開催いたしました。UNESCO・ジャカルタ地域事務所はブルネイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、東ティモールの東南アジア5カ国を管轄する事務所で、教育、科学、文化、コミュニケーションと情報、そして社会・人文科学といった幅広い分野で事業を展開しています。

 本セミナーでは、「2030年までにSDG 4を東南アジアで達成するには何が必要か」というテーマのもと、林川氏のジャカルタ地域事務所所長としての実体験を織り込みながら、東南アジアの教育の現状、喫緊の課題、課題解決のために必要な施策、ジャカルタ地域事務所における活動などについてお話しいただきました。

 まず、林川氏は、東南アジア地域における教育の現状として、政府の教育支出が縮小しているのではないかと危惧の念を抱いておりました。また、東南アジアでは教育に関するデータが十分に記録されていないことを示され、教育の課題点を特定することができないという危険性もあることを指摘されました。次に、東南アジア地域における教育分野の喫緊の課題として、(1)学習貧困(Learning Poverty)、(2)情報格差(Digital Divide)、(3)気候の脆弱性(Climate Vulnerability)、(4)限られた資金(Limited Funding)の4点をご紹介されました。さらに、課題解決のために必要な方策として、地球規模、地域間など様々なレベルで協力するためのメカニズムづくりの重要性を訴えられました。また、2024年9月にタイで行われた第6回 Asia-Pacific Meeting on Education 2030 (APMED 6)にて議論された(1)教育の変革的な力を解き放つための戦略的な行動を取ること、(2)SDG 4(持続可能な開発目標達成に向けた進展を促すための変革的な行動を取ること、(3)教育への投資をより多く、より公平に、より効率的に行うことについて、具体的にどのような行動戦略が不可欠なのかご説明いただきました。最後にジャカルタ地域事務所の活動として、若者に津波の危険性、意識、準備に関する知識を提供するとともに、インド洋地域の高校生の間で学びと協力のネットワークを育むことを目的としたTSUNAMI UNITEDの活動、若者の起業家精神を促進し、地元コミュニティの生計と遺産地を結びつけることで、文化および自然遺産への意識を高めることを目的としたプログラムCreative Youth at Indonesian Heritage Sites、インドネシアの大学生を対象とした社会調査のスキルを向上させるための能力開発プログラムを提供するUNESCO Youth as Researchers & Tanoto Student Research Awards (YAR-TSRA)をご紹介くださりました。

講演後には学生との活発な質疑応答や議論が交わされました。学生からの幅広い質問に対し、林川氏とUNESCO IIEPでご活躍されていた齋藤みを子氏が1つ1つ丁寧に回答をして下さりました。

末筆になりますが、本講義を実施いただいた林川氏、学生からの質問に快くお答えくださった斎藤氏、貴重な機会を提供くださった小川啓一教授に心より感謝申し上げます。

文責:横川野彩(博士前期課程2年)